島と今治のディープなお店「ローカルに人気のある本当においしいお店。個人レベルで紹介します。」
かねと食堂
今治になくてはならないお店です。
かねと食堂はいわば普通の食堂である。これだけ食が多様化し、いろんなお店が乱立。激しい入れ替わり。さらに大手チェーン店では安売り合戦が勃発。消費者にはうれしいが、そんなことがいつまでも続くとは思えない。そんな中「かねと食堂」はどこ吹く風のように自分のペースで変わることなく営業し続けている。時代の変化についていけなかったのか?あえて変化させなかったのかは今となってはわからないが…。
店に入ると、おばちゃんが銭湯の番台のような台の上に座っている。ここで注文してお金を支払う。基本前払いだが、先に席についてしまう客もいる。そうなるとあとからの払いになるのだが、あえて先に払うことを催促するわけでもない。また、支払い伝票があるわけでもない。かと言って店の人がいちいち覚えているはずもない。結局帰り際に客の自己申告ということになる。間違いはないのだろうか?悪意のある客はいないのだろうか…?まあそんなことはどうでもいいんだろうけれど…。
変化していないと言っても軽微なメニューの追加変更は繰り返してきた。創業当時はうどん店だったという。その後お客さんの要望に応えるカタチでメニューが増えていったのだ。最近でも新メニューがいくつか増えている。カレー中華そばもその一つだ。新潟の三条市のカレーラーメンを真似たわけではなく、お客様からの要望があり、店主が考えて作ったのだ。中華そばのスープとカレーの絶妙なバランス。程よい辛さ。麺を食べたあとにご飯を入れて食べるのがまたたまらない…。今、かねと食堂で人気のメニューになっている。
このようなメニューの小さな変化はあるが、基本の姿勢、営業方針(方針があるかどうかわからないが)は、変わっていない。ともあれ大きく変化しなかったことが長く繁盛し続けている理由であろうと思われる。
創業は明治25年ごろというから120年近くこの地で同じように地元の人たちのために食を提供し続けていることになる。お店は戦争で焼けてしまい、今のお店は戦後に建てられたものだが、店内の木のテーブルなども含めレトロな雰囲気が漂っている。かつては、客の99%が地元の人だった。しかも近所の商店街の人のほとんどが昼は「かねと食堂」で食べていた。ところが景気が悪くなると、商店街の人たちも昼食を作る時間ができる…。当然「かねと食堂」にも来なくなる。で、同じように「かねと食堂」が暇になったかというとそういうわけでもない。遠くから来る人が増えたという。こういう形態のお店が少なくなってしまい、ある程度年齢の高い人は懐かしさから、若い人は珍しさから訪れるようだ。いつの間にか県外からの観光客までが来るようになった。そうなっても決して客に媚びることはない。全くかわらないマイペースで営業を続けている。
また、かねと食堂の客はリピート率が非常に高く、毎日来る人も少なくはない。不思議なことにメニューが50種類以上もあるにもかかわらずリピートの人は同じものを注文する確立が高い。
例えば初めて来た時オムライスを食べたとする。ケチャップライスを卵でくるんだだけの普通のオムライスなのだが深くおいしい!おそらく卵は1個しか使っていないのだろう。卵がすごく薄い。そしてケチャップの味というか全体の味が深い。特別なケチャップを使っているわけではないらしいのだが…。ならなぜこんなにおいしいオムライスができるのか…?ごはんの量に対するケチャップの量、玉葱の量、肉の量そして卵1個。この割合が絶妙である。これがレシピというものだろうけど…。で、その人が2回目来たとする。感動的においしかったわけではないのだか間違いなくオムライスを注文する。
例えば初めて来た時鍋焼きうどんを食べたとする…。なんでもない昔ながらの鍋焼きうどん。オムライスと全く同じことになる。次来た時も鍋焼きうどんを注文するに決まっている。その時に感動的なおいしさを与えるものではないが、脳内においしい記憶として残っているからだろうと思う。
冒頭で普通の食堂であると言ったが、普通の食堂が少なくなった今、普通が普通でなくなった。かねと食堂は非常に個性的な食堂になった。