今治建築WEB

建築家・伊東豊雄さんと大三島

Text & Photography|宮畑周平(瀬戸内編集デザイン研究所)

大三島にできた、ふたつのミュージアムを訪れる

彫刻の優しさと島の空気を楽しむ円形の美術館
今治市岩田健母と子のミュージアム

朝の光を受けて立つ彫刻たち。すぐそばには青い瀬戸内海が広がる。

次に、今治市岩田健母と子のミュージアムに行ってみよう。今治市伊東豊雄建築ミュージアムからは車で5分ほど。宗方の集落を抜けて少し行くと、右手に見えてくる。旧宗方小学校を利用した宿泊施設「大三島ふるさと憩の家」に隣接する、彫刻家・岩田健氏の作品を展示する美術館だ。

旧小学校の校庭を利用して建てられていて、コンクリート打ち放しの円形の囲いの中にたくさんの彫刻が林立する。

駐車場に車を停め、前の小さな小屋でチケットを買い、20mほどのアプローチを通ってエントランスから中に入ると、青空と白い壁、そして緑の芝生の中に彫刻群が浮かんでいるのが目に飛び込んでくる。

壁沿いには2mほどの庇が出ていて、その下にいくつかのベンチもある。館内は自由に回遊でき、彫刻をいろいろな向きから眺めることができる。

伊東さんは、島の環境の中で彫刻群が最も美しく見えるように、この建築のかたちを追求したという。一見壁によって外界から遮断されているように見えるが、環境の音や自然の光、海のにおいなどを感じることができ、彫刻と島の自然だけを抽出したような不思議な感覚になる。

岩田健氏は実兄の戦死を契機に生涯「母と子」をテーマに彫刻をつくり続けた作家で、母親の優しさ、子どもの純粋さや母への愛がどの作品からもあふれている。

晴れた日はもちろん、雨が降る日も違った情緒を感じることができるだろう。暑い夏は深い庇の下で一休みし、寒い冬は島の引き締まった空気の中に彫刻たちと佇もう。となりに建っている大三島ふるさと憩の家に宿泊し、古い校舎を堪能した翌日、朝から彫刻と建築を鑑賞するのもいい。ぜひゆっくり余裕を持って、移りゆく島の時間や季節と彫刻を楽しんでほしい。

早朝の今治市岩田健母と子のミュージアムの前を、みかん箱を満載した軽トラックが走る。静かな空気の中に、ときどき島の人たちの日々の暮らしが通り過ぎる。美しい時間がここには流れている。

今治市岩田健母と子のミュージアム

設計 伊東豊雄建築設計事務所|構造 佐々木陸朗構造計画研究所|サインデザイン 廣村デザイン事務所|施工 大成建設|建築面積 197.29m²|延床面積197.29m²|階数 地上1階|構造 鉄筋コンクリート造|竣工 2011年|建築用途 美術館|平面図断面図

住所 〒794-1309 愛媛県今治市大三島町宗方5208-2|TEL 0897-83-0383|開館時間 9:00-17:00|休館日 月曜日(祝日の場合は原則翌日振替)、年末(12/27-12/31)|サイト