Text|増田薫
Photography|宮畑周平(瀬戸内編集デザイン研究所)
地元の人と島を訪れた人たちが交わり合うのが大三島みんなの家の魅力。「テーブル越しにお客さん同士、おしゃべりが始まったりしますよ」。久保木さんが微笑んで教えてくれた。
2017年、伊東建築塾は、大三島で新たに11のプロジェクトに取り組みはじめた。そのひとつに『みんなの家を一日一度は寄ってみたい場所にします』というプロジェクトがある。みんなの家を誰かの家のようにくつろげて、地元の人と移住者、そして観光客がつながる場所にする。この流れのなかに今回のリニューアルがあった。
ランチ800円。この日は島のお母さんたちから教わった「もぶりご飯」。混ぜご飯の一種で、このあたりの郷土料理。濃いめに味付けしたレンコンやキノコ、お揚げさんなどの具材を炊き立てのご飯に混ぜる。野菜やひじきなども近くの道の駅に出ている産直のもの。
店舗奥の和室に設けられた『物々交換』の、いわばギャラリー。知らずに訪れた観光客が自分も参加したいと、まずは一品持ち帰り、のちに交換する自分のものを郵送してくることもあるとか。島と街とで大切なものの交換が行われる。
メニューの見直しはもちろん、店頭では地元の作家による雑貨を中心にした物販スペースが設けられ、店舗奥の和室に続く玄関には、思入れのある品を誰かのお気に入りの品と交換できる『物々交換』コーナーが拡充される。その他『参道プチマーケット』も定期的に実施。みんなの家を会場に、大三島産の有機野菜の販売や、ハンドメイドの雑貨、焼き菓子などが販売される予定だ。
物販コーナー。地元の作家によるキャンドルや、セレクトされた衣類、それから地元農家がつくった柑橘ジャムやはちみつなど、どれも大切に使いたい、大切に食べたいと感じさせるものが並ぶ。
リニューアルについて「スタッフが心地良く働いていることが伝わればお客さんもきっと心地良いはず」と語る古川さん。店内の荷物を整理しスタッフの動線を確保することを心掛けた。その古川さんはものを仕分けるのが得意。日々の業務の中で滞っていた荷物の仕分けを担当した。
「物々交換」に並ぶ品物。それぞれがモノとヒトとの物語を持っており、次に大切に使ってくれる人を静かに待つ。
もともとは東京で、リサイクルに関わる仕事をしていた久保木さん。瀬戸内で暮らしたこともあり島暮らしには全く違和感がなかったのだそう。「大三島みんなの家の空間をまったり楽しんでいただきたい」と語る。
久保木さんは古き良きものを選び出す独特の感性を持つ。あちこちから集まってくるいただきものの古い器は久保木さんのコーディネートでよみがえり、地元の食材を使った料理が盛り付けられみんなの家のテーブルに登場する。物販コーナーや『物々交換』のギャラリーの運営も、久保木さんが担う。
新しくメンバーに加わった関戸沙里さん。関戸さんは伊東豊雄建築ミュージアムでの展示に感激、移住した情熱と実行の人だ。2017年末からはいよいよ、ご主人と小学生の息子さんも大三島で暮らしはじめた。
関戸さんはみんなの家をもっと知ってもらえたら、きっともっと好きになってもらえるとポジティブに確信。島の温浴施設に出掛ければ地元のおばちゃんと積極的におしゃべりし、みんなの家のことを伝える。関戸さんが来てから現場が明るくなったそうだ。
大三島で出会った人たちのように。オープンして1年半。大三島みんなの家は、それぞれができることをして少しずつ助け合う場に育っていた。
大きな窓から流れ込んでくる光が、ガラス越しに淡く滲む。築約100年。古い建具だからこそ生まれる、心地良さなのかもしれない。
リニューアル後、夜のワインバルは週2日と営業日が少なくなる。これは業務が増える久保木さんや小学生の息子を持つ関戸さんが無理なく働けるように考慮してのこと。古川さんは「2人がやりたいことを実現してもらいたい。スタッフが楽しんでいることが伝わればお客さんも楽しんでくれるはず」と言葉を重ねる。
そして古川さん自身も「肩肘張るのをやめた」そうだ。結婚したばかりの古川さん。仕事一辺倒ではなく家庭も充実させたいと最近では感じている。子育てについても「大三島にいると子供もみんなで育てればいいかなと思います。みんなの家で託児所的なサービスもいいかな」と朗らかに語った。
助け合い認め合いながら大三島みんなの家の日々は続く。そしてそれは彼女たちが大三島で出会った人たちから教わったスタイルなのだ。